骨髄細胞であごの骨再生

山下歯科医院HOME

骨髄細胞であごの骨再生

重い歯周病でひどくやせたあごの骨に骨髄の細胞を入れ、骨を再生させる治療が成果をあげている。東京大医科学研究所の各務(かがみ)秀明客員准教授らの臨床試験で、10人中8人でインプラント(埋め込み型の義歯)を入れられる状態まで骨が厚くなった。有力な治療法の一つになりそうだ。20日開かれた歯科インプラント治療のシンポジウムで成果が報告された。 重い歯周病では歯が抜けるだけでなく、歯を支えていたあごの骨もやせ細っていくことが多い。骨の厚さが5ミリ以下になると、義歯が入れられなくなる。義歯を入れるには、これまでは腰や、あごの別の部分の骨を移植するか、人工骨を使う治療しかなかった。 チームは東京医科歯科大などと協力、2年半前から臨床試験を始め、10人の患者から骨髄を採って培養した。このうち8人に、骨が欠けたときの治療などで使う補填(ほてん)材と一緒に、薄くなったあごの骨に盛った。 半年後に8人とも義歯を埋め込めるまで再生。1年経過した5人ではもとの骨との境目が見えなくなるほどに回復した。 課題は、得られる細胞の質や増え方に、まだばらつきがある点だという。各務客員准教授は「今回の方法なら骨髄の採取は外来、細胞の移植も1泊2日でできる。中高年の患者に対し、体の負担が少なくてすむ」と話している。 ( asahi.com 20年1月21日付) このところの再生医療の研究成果にはとても驚かされます。 成人の80%以上に認められる歯周病は、歯槽骨(歯を支えているアゴの骨)が徐々に吸収して(溶けて)いく疾患ですが、初期から中期ではあまり症状がないため、気がついた時には重篤化していることも多い恐いしい疾患です。 重度の歯周病により多数歯を失ってしまった場合には、骨量の不足からインプラントの植立は難しく、可撤式義歯(取り外し式の入れ歯)を使用する場合でも、歯槽骨の吸収により義歯の安定が得られず十分な咀嚼機能が回復できないことが多いのです。 ですから、あごの骨の再生が日常診療の場で可能になれば、これはとても大きな福音となります。 もちろん、歯周病にならないようにすることが何より大切ですから、そのための定期健診やメインテナンスを怠ることのないように!ということは言うまでもなく、くれぐれも本末転倒にならないように。 マウスiPS細胞については過去のコラムでも取り上げましたが、角膜再生の研究も成果が出たようですので書き添えておきます。 東北大の西田幸二教授(眼科)らのチームが、マウスの体細胞から作られた万能細胞(iPS細胞)を使い、角膜になる幹細胞にまで分化させて培養することに、京都大との共同研究で成功した。今後、人間のiPS細胞を使った実験を計画、すでに臨床応用されている角膜移植などと組み合わせることで拒絶反応のない再生治療の実現をめざすという。 iPS細胞による角膜再生の流れ 西田教授らは、京都大の山中伸弥教授からマウスのiPS細胞の提供を受けて、1年半前から研究を始めた。iPS細胞を1カ月ほどかけて増やした後、薬剤を使って分化を誘導し、角膜細胞の前の段階の細胞を取り出し、培養することに成功した。今後、角膜の細胞に完全に分化させる手法を確立し、臨床応用につながる細胞シートの作製につなげたい考えだ。 角膜の治療は、他人の角膜や角膜の細胞を培養して作ったシートを移植する方法と、患者本人の角膜細胞から作ったシートを移植する方法の2種類がある。ただ、他人の角膜を使う方法では拒絶反応を避けられず、患者本人の角膜からシートを作る方法は病気のためにうまく細胞が増えないなどの問題がある。患者の健康な部位からiPS細胞ができれば、そうした課題を克服できる。 今回はマウスでの成果だが、原理的には人も同じ手法で分化・誘導を実現できると考えられるという。西田教授は「ヒトのiPS細胞でも再現できれば、拒絶反応がなく、質が高い細胞シートを使った治療法を比較的早く実現できるのではないか」と話している。( asahi.com 20年1月26日付)
< 2008/01/26 >

骨粗しょう症薬であご骨壊死

最近は「骨粗しょう症」という言葉もずいぶん知られるようになりました。 骨の役割の一つにカルシウムの貯蔵がありますが、蓄えられる量より使われる量が上回ると、骨は軽石のようにスカスカになってきてしまいます。誰でも加齢により骨量が減少してくるのですが、特に女性は閉経後に加速度的に減少しやすく、また若い人でも無理なダイエットなどにより骨密度が年齢相応よりかなり低くなってしまっている人も多く、関心が高いところだと思います。 現在わが国では、骨粗しょう症に罹患(りかん)している人が1200万人以上いると言われていますが、実際に治療を受けている人は200万人ほどしかいないようです。 骨粗しょう症により大腿骨骨頭頚部骨折を起こし、その後寝たきりになってしまう高齢者の数は、脳血管障害による寝たきりに次いで多いのです。このことからも、骨粗しょう症の予防や早期治療がQOL(生活の質)向上のためにとても大切であると分かっていただけると思います。 人間ドックなどでも「骨密度測定」が行われているので、機会があったら一度検査してみるのも良いと思います。 歯科の分野では、骨粗しょう症に罹患するとあごの骨も減少し歯の骨植に影響を与えるため、歯周病に罹患しやすく予後もあまり良くありません。また、インプラント治療なども適用外となってしまいます。 また、最近では歯科受診時に撮影するお口の中の全体像を把握する歯科用パノラマX線写真で、骨粗しょう症やその疑いのある方を早期に発見し、医科への受診を促すという研究がなされ、臨床に活かされつつあります。 -広島大学病院の歯科放射線科・田口明講師らが歯科用パノラマX線写真による閉経後女性の骨粗鬆症スクリーニング法開発- 現在その患者数が1,200万人と試算されている骨粗鬆症患者,特にその大多数を占める閉経後骨粗鬆症患者は,骨折を起こすまで自覚症状がないため,医科を受診する機会が少なく,治療を受けている患者数は200万人に満たないと言われています。しかしながら,更なる社会の高齢化に伴い,骨粗鬆症に起因した骨折による患者の生活の質は低下し,死亡率の上昇および国民医療費の増大が予想され,早急な対応が迫られています。  潜在的な骨粗鬆症患者(低骨密度患者)を選別し,医科の専門医への受診を促すため,簡便な質問表によるスクリーニング法が医科領域では世界中で開発されていますが,女性の反応は極めて悪いことが報告されています。潜在的患者は,その治療のため積極的に病院に受診する機会は少ないようですが,歯科疾患の治療のために歯科を受診する機会は多いと考えられます。今日歯科では,顎全体が総覧できるパノラマX線写真により,歯やその周囲の歯槽骨を診断し,歯科疾患の治療に役立てています。しかし,それら以外の情報が活用できるということは,ほとんど知られておらず用いられないのが現状でした。  1993年から行われてきた広島大学病院歯科放射線科と産科婦人科との共同研究により,歯科パノラマX線写真で観察される下顎の皮質骨の粗鬆化が,閉経後骨粗鬆症患者のスクリーニングに極めて有用であることが明らかとなりました。この知見は,2004年の米国レントゲン学会雑誌の12月号に掲載され,事前に全世界にニュースで流されました。本報告は,パノラマX線写真によるスクリーニング能力が,医科での質問表によるスクリーニング能力と同等であることを示したものです。歯科のパノラマX線写真は,日本で年間に約1000万枚近く撮影されていますが,これが骨粗鬆症のスクリーニングに活用されれば,早期発見・早期治療に役立ち,コストの面でも有用と思われます。本手法を用いて実際に骨粗鬆症スクリーニングを行った広島県歯科医師会の調査では,多くの閉経後骨粗鬆症患者をスクリーニングすることができました。  歯科治療のために撮影されたパノラマX線写真により骨粗鬆症患者がスクリーニングできれば,歯科医師が国民の福祉に多大に貢献できることが期待できます。広島大学病院歯科放射線科では現在,世界17カ国の国々の研究者と協力して,世界中でのパノラマX線写真による骨粗鬆症女性のスクリーニングの有用性に関する検討を行っています。(広島大学病院HPより) また、昨年あたりから報告が入ってきていました「ビスフォスフォネート製剤」による副作用についても、日本口腔外科学会による調査結果が公開されましたのでお知らせします。 骨粗しょう症の代表的な治療薬「ビスフォスフォネート(BP)製剤」を使っている人で、歯科治療後にあごの骨が壊死するなどの副作用に見舞われている人が全国で少なくとも30人に上がることが日本口腔外科学会(理事長=福田仁一・九州しか大学長)の調べで分かった。薬と抜歯などの治療後の細菌感染が重なったのが原因と見られる。 国内では、高齢の女性を中心に骨粗しょう症患者は約1000万人と推定され、100万人以上がBPを服用しているといわれている。厚生労働省は、BP使用によるあごの骨の壊死に関連する副作用の診断基準などを掲載した重篤副作用疾患別対応マニュアルを早急にまとめ、患者や意思に注意喚起する方針だ。 BPは、骨の代謝を抑える作用があるほか、がんの骨転移による骨壊死を防ぐ働きもある。 同学会では昨年、BPを普段使っている患者に、抜歯後の穴が埋まらず骨が露出し、あごの骨が腐ったり、炎症が悪化したりする副作用が続出したのを受け、全国の主な歯科治療施設239か所を対象にアンケート調査を実施した。 その結果、30人のあご腐る、骨髄炎などの重い「副作用」を起こしていたこと判明。平均年齢は66,9歳で、女性が26人と大半を占めた。乳がん治療などの一環として注射を受けている人が25人と多く、骨粗しょう症治療のために錠剤を飲んでいる人は5人だった。 副作用が出たのは、抜歯後が16人と最も多く、インプラントや義歯装着でも発症。歯周病など口内に問題があって発症したケースも5人いたという。福田理事長は「BPを使っている患者は、歯科治療の際に必ずその旨を歯科医に伝え、BPを処方する医師も副作用について十分説明することが重要だ」と話している。(2008年1月4日付 読売新聞)
< 2008/01/08 >