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口腔がん・検査翌日から抗がん剤

今年9月に、石川嘉延静岡県知事が初期の歯肉癌であることを公表し、切除手術を受けたことは、静岡県民なら記憶に新しいことでしょう。 歯肉癌は歯茎にできる癌で、口腔癌(口の中の癌)の中では舌癌に次いで多い癌です。3分の2は下顎歯茎に発生し、臼歯部が多いとされています。石川知事も左下奥歯でしたから、典型的な症例といえます。 歯肉癌の予後は病変の進行度によりもちろん異なりますが、病巣が直径3cm以内で転移のない場合では80%以上が治癒しているといわれています。しかし、歯肉癌全体では5年生存率が上顎で約30%、下顎で約25%で、決して良いとはいえません。 歯肉癌や舌癌を含む「口腔がん」は、癌の中ではそれほど頻度の高いものではありませんが、早期に首のリンパ節への転移も生じやすいため、早い病期での発見は勿論のこと、発見したならば早期に治療することがとても大切になってきます。 11月30日の新聞に、口腔がんの疑いで組織の一部を採取する「生検」という検査を受けた患者に、翌日には結果を知らせて、癌であれば抗がん剤治療を始める試みを昭和大学歯学部の新谷悟教授らが進めていることが取り上げられていましたので、紹介します。 舌や歯ぐきなどにできる口腔がんの治療は、一般に\x{fffd}@生検\x{fffd}A摘出した組織を顕微鏡で見る病理診断でがんかどうか判定\x{fffd}B画像診断で部位や転移の有無を検索\x{fffd}C抗がん剤や放射線による治療で病巣を小さくして手術-の順に進む。 ▽転移しやすい 生検から病理診断まで一週間、その後も「画像診断装置や手術室の確保の都合があり、手術まで数週間かかる」(新谷教授)。 口腔がんは首のリンパ節に転移しやすく、新谷教授は無治療期間を短くする方法として、迅速病理診断と早期抗がん剤治療の導入を決めた。 通常の病理診断では、採取した組織をホルマリンに浸したパラフィンで固めて切片を作る。一方、迅速診断では液体窒素で瞬時に凍結させるため、すぐに切片ができ結果が分かる。手術中に、がん細胞の取り残しがないかどうかを調べるのに使われており、新谷教授は「信頼性は高い」という。 患者が希望すれば、生検の翌日に結果を教え、がんなら直ちに飲み薬の抗がん剤治療(2週間服薬し1週間休薬)を開始。がんがある程度進行していれば、放射線を併用するなど、治療を行いながら手術の準備を進める。 この方法を昨年7月以降、19人に実地し、手術までの期間は二十日程度で済んだ。 ▽早期治療を望む声多数 見ただけでがんと分かる症例には、病理診断の結果を待たずに抗がん剤投与を始めてはどうかという意見もあるが、新谷教授は「抗がん剤は副作用も起き得るので、病理は欠かせない」と言う。 こうした方法を患者側が望んでいるのか確かめようと、新谷教授は調査会社に依頼しインターネットで全国の一般の人約1300人にアンケート。生検から2,3日以内に結果を知りたい人は73%、結果判明から1週間以内に治療を始めてほしい人は85%と、迅速な対応を望む意見が多かった。 迅速病理診断は、がんの手術を毎日行っている診療連携拠点病院のような医療機関なら可能で、新谷教授は「飲み薬の抗がん剤を使う胃がんや食道がんなどの治療にも応用できるのではないか」と期待している。(11月30日付 静岡新聞夕刊) 石川知事の場合はハミガキ時の出血で病院を受診され、早期発見早期治療に結びついたようですが、ハミガキ時の出血はとかく軽く見てしまいがちです。 「ちょっと歯周病にでもなったかな?」と、また、初期段階では見た目や症状が口内炎に似ているため放置されてしまい、進行してしまうこともあります。白血病なども歯肉からの出血で発見されることが往々にしてあります。 タバコやアルコールや激辛などの刺激もそうですが、虫歯や歯石・適合の悪い詰め物や被せ物・合ってない入れ歯などで常に歯ぐきや舌を傷つけ続けていることも癌の原因になります。口腔内を不潔にしているとが引き金となります。 定期的に歯科医院でお口の中をチェックしてもらうことは、歯周病や虫歯から「歯を救う」だけでなく、口腔内に潜む癌などの疾患から「命を救う」ことでもあるといえるのです。