院長コラム

HOME院長コラム健康を脅かす歯周病 Floss or die ?

健康を脅かす歯周病 Floss or die ?

3月2日の日曜の夜、BS-iで「健康を脅かす歯周病」という番組を放送していたのを見ました。このときは再放送ということでしたが、Vo.1とVol.2の1時間番組を2本、7時から9時までの2時間のON AIR でした。 テレビでは、毎日のように医療関連の情報や番組が放送されています。 産科や小児科の医師不足や救急医療などの過酷な労働実態などの問題、医療費削減による国民皆保険診療体制の崩壊などを取り上げた社会派番組。脳外科や心臓外科などの神の手といわれる名医を取材・紹介するものや、最先端医療を取り上げ医療の未来をうらなうもの。日常の見逃しがちな些細な自覚症状に潜む重篤な疾患を見逃さない方法や、特別な器具や設備がなくても手軽にできる健康増進体操など、多岐にわたるテーマが取り上げられています。体に良い或いはダイエット効果のある食べ物の情報などでは、データの改ざんなどという不祥事も一時期問題になりましたが、健康への国民の関心は当然ですがやはり高いようです。 そんな中で、最近歯科医療関連の情報番組が増えてきたことを私はとてもうれしく思っています。 昔ながらの「歯医者=痛い・恐い」というイメージがなかなか拭い去れないのか、痛くならないと歯医者に行かない、痛いところを削って詰めたらおしまい、腫れが引いて痛くなくなったらもう行かない、という方も残念ながらまだまだ結構多いのではないでしょうか。 でもこれでは、お口の健康というよりも全身の健康を保つことはできません。 では、話を「健康を脅かす歯周病」に戻しましょう。 この番組では、歯周病と全身疾患との関連についてレポートされていました。 歯周病については機会があるごとにお話してきましたが、口腔内の慢性感染性疾患です。お口の中には億単位の細菌が常在しています。その中の歯周病菌が歯と歯茎の間のポケットと呼ばれる溝の中で活動性を増し、毒素を放出し歯の周りの骨を溶かしていくわけです。40歳代では80%以上の人が罹患しているといわれている歯周病ですが、放置しているということは、平たく言えばポケット内でそんな歯周病菌を飼育し、着実に培養して増やしていることに他ならないのです。 お口は食物の入り口ですから食道・胃へとつながっています。また呼吸器でもあるわけで、気管・肺へもつながっていることは皆さん知っていますよね。ということは、歯周病菌はたやすく体内に侵入するということです。 番組では「誤嚥性肺炎」を取り上げていましたが、これは皆さん結構容易に結びつきを連想できるのではないかと思います。特にお年寄りや体が弱くなっている方は飲み込む力(嚥下機能)が弱く、うまく飲み込めず、食物が気管に入ってしまうことが多くなります。また、気管に入ってしまった異物を吐き出す力も弱いので、口腔内環境が悪いと誤嚥性肺炎を起こす頻度が高くなり、この肺炎がもとで容態が悪化してしまうことも多いのです。 また口腔内の歯周病菌がリンパや血管を通って体内に入り、例えば心臓の弁を破壊し「心不全」を起こさせてしまったり、冠動脈に影響を与え「心筋梗塞」を引き起こしたりする可能性も語られていました。歯周病があると心筋梗塞を起こす率は3倍になるといわれています。 また、歯周病菌に対して体の免疫機能が働く時にサイトカインというたんぱく質が作られますが、これに影響され「低体重出産」の危険性が5倍になることも報告されていました。 さらにこのコラムでも過去に紹介してきた「骨粗しょう症」や「糖尿病」との関連も当然出てきていました。 あまり聞きなれない病気では、「バージャー病」が取り上げられていました。日本には約1万人の患者さんがいらっしゃるそうですが、これも歯周病菌との関係があるようです。 歯周病に罹患すると、歯と歯茎の間に「歯周ポケット」ができることはお話してきましたが、このポケット内面を顕微鏡で観察すると「潰瘍」状の病態がみられます。ある進行した歯周病患者のこの潰瘍部分をつなげて表面積を合計したら、その面積は約70平方cmにもなったそうで、これは大人の手のひらとほぼ同等の面積だそうです。 これは驚きです。もし胃にこんな大きさの潰瘍があったら・・・ですよね。 今回は、BS放送の番組をこのコラムで取り上げましたが、2週間ほど前には地上波テレビ朝日系「最終警告!たけしの本当は恐い家庭の医学」でも「なぜ歯茎の出血から心筋梗塞に」「なぜ歯周病から糖尿病に」が放送されていましたので、こちらはご覧になったという方も多いのではないでしょうか。 10年ほど前、アメリカの歯科医師会では「Floss or Die ?」というキャンペーンが大々的に行われました。これはハブラシだけでなくフロス(糸楊枝)をも使うことに始まる口腔内のより徹底した健康管理を選びますか?それとも無関心で死への道を選びますか?ということです。ここまで読んでこられた皆さんは大いにうなずけることと思います。 「痛くなくても歯医者に行く」ことが健康管理の第一歩で「定期的に口腔内をメインテナンスしていくこと」が豊かな人生のためにはとても大切なことなのです。 Floss or die ?