糖尿病の合併症としての歯周病

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糖尿病の合併症としての歯周病

2006年12月20日、ちょうど1年前に糖尿病に関する国連決議がなされました。それは「糖尿病をエイズと並んで人類が克服すべき2つ目の疾患として、その対策を進めていく」というものです。 世界中では、2億5000万人余りの糖尿病患者がいます。そして、年間700万人ずつ患者が増えています。国を問わず、若い人も働き盛りの年代も、です。そして、1分間に18人、年間約380万人の方が亡くなっています。この数はエイズによる死亡数(2002年)に匹敵します。糖尿病とその合併症は世界の脅威なのです。 日本では、約740万人の糖尿病患者がいます。さらに糖尿病が否定できない予備軍が880万人といわれています。合計1620万人は、成人の約6人に1人にあたります。その内、治療を受けているのは約半数のみで、42%の人は治療を受けていません。 糖尿病の合併症は、血管病変から起きることが多く血管合併症とも言われています。 たとえば、歌手の村田英雄さんが足を糖尿病による壊疽で切断したことは有名です。神経障害により知覚低下と動脈硬化賞による血流低下、高血糖による免疫脳低下から、小さな傷から壊疽などの重篤な足病変にいたることがあり、非外傷性の足切断の原因第1位となっています。 他には、網膜症や腎症があります。年間4000人が糖尿病により新たに失明しています。また、年間14000人が新たに人工透析を受けなくてはいけない状態になっていて、これもまた透析導入原因の第1位です。 これら糖尿病に特異的な細小血管障害による合併症のほかに、高血糖が促進因子となる大血管障害があります。脳卒中や心筋梗塞・狭心症、閉塞性動脈硬化症です。 糖尿病でない人に比べ2~3倍の高頻度で脳梗塞や心筋梗塞は発症するといわれています。 そして、最近とても注目されている合併症が「歯周病」です。 糖尿病患者では歯周病の罹患率が高く、特に血糖のコントロールが悪い場合には重度の骨吸収を伴う歯周病に罹患する場合が多く認められるのです。糖尿病を併発している患者さんの予後が悪いことは知られています。 糖尿病患者は、好中球機能低下やコラーゲン代謝障害により易感染性や創傷治癒不全が生じること、また口渇なども歯周病との関連があります。 また一方、歯周病が糖尿病を増悪させることも示唆されています。 歯周病の炎症をコントロールすると血糖値が改善するという報告があります。例えば、歯周病治療によって歯周組織の炎症が改善された結果、糖化ヘモグロビン(HbA1c)等の数値が改善する場合があるのです。 そこで、今年、国際糖尿病連合と世界歯科医師連盟が連携して、歯周病と糖尿病の撲滅に立ち上がりました。 日本糖尿病対策推進会議(日本糖尿病学会、日本糖尿病協会、日本医師会)に、20007年より日本歯科医師会が加盟し、日本糖尿病協会が2007年より「糖尿病歯科医師登録医制度」を開始しました。 5月の予備登録開始より私も手順を重ね、10月に登録いたしました。現在登録医証の送付待ちです。 これからさらなる研修を重ね研鑽を積み、微力ながら糖尿病患者さんの歯周組織の健康の回復・増進を手助けしていけたらと思っています。
< 2007/12/20 >

冬の蛍@山下歯科医院

今年も12月4日(火)から「冬の蛍@山下歯科医院」を点灯しています。 11月29日(木)施工点灯の予定でしたが、あいにくの雨模様で延期となってしまいました。諸事情により、施工が火曜日と診療日と重なってしまい、当日ご来院頂いた患者様にはご迷惑をおかけしてしまいましたが、皆様のご理解とご協力により無事点灯させることができました。ありがとうございました。 当医院前の道路は、バスも頻繁に通る主要道路ながら、古くからの商店は最近すっかり寂しくなってしまい、夜間ともなると街灯や信号がちょっと空しく感じます。 松城町に限らず近隣の町々も、住宅地の郊外化にともない子供たちの数はめっきり減っており、町民の高齢化も着々と進んでいるようです。 そんなわけで、少しでも煌きや感動を感じていただけたらと、4年前の山下歯科医院リニューアルオープンを機に、この時期「冬の蛍@山下歯科医院」を勝手に開催しています。 屋根周りや北側バス道路沿いは、電灯色でライティングしてますので、温かみを感じていただけるのではないでしょうか。北西コーナーのシンボルツリーと西側医院入り口面はホワイトとブルーのLEDライトで華やかに、そして少し可愛らしくデザインしてあります。 そして今年は、ちょっとだけバージョンアップもしてみました。ホントにホントにほんのちょっとですが・・(笑) このところめっきり寒くなりました。いよいよ冬本番ですね。夕方もあっという間に日が落ちて暗くなってしまいます。 「冬の蛍@山下歯科医院」は、4時半頃(一定の薄暗さに反応して自動的に点灯します)から、夜11時まで、毎日開催していますので、お近くをお通りの際は是非ご覧くださいませ。 尚、特にお車でお通りの方は、安全には十分お気をつけくださいます様、お願い申し上げます。
< 2007/12/12 >

「乳歯バンク」子供の歯で再生治療

名古屋大は6日、乳歯から骨や神経など様々な細胞に分化する能力を持つ「幹細胞」を取り出し、再生医療に役立てる研究をするため、学内に「乳歯幹細胞研究バンク」を設立したと発表した。乳歯は同大付属病院など6病院から提供を受け、数年で1万個程度の幹細胞を収集、研究データを集めて臨床応用を目指す。同大によると、大学などの公的機関に乳歯の幹細胞バンクを設置するのは世界初。 バンク設立したのは、医科系研究科の上田実教授らのグループ。提供された乳歯や親知らずから、幹細胞を採取して培養。超低温で保存して研究する。 幹細胞を使った再生医療では、骨髄や臍帯血があるが、乳歯の幹細胞はこれに比べて、細胞の増殖能力が高く、採取が簡単な事から、実用化に期待が集まりそうだ。 上田教授らは子犬の歯から取り出した幹細胞で親犬のあごの骨を再生できることをすでに確認しており、近親者の再生医療に使える可能性もあるという。上田教授らは犬の実験例を重ねて研究結果を発表したうえで、厚生労働省や学内の倫理委員会の審査を経て、人の臨床実験を実施したいとしている。 上田教授は「将来的には、孫の乳歯で祖父母の骨粗しょう症による骨折や傷跡などを治療できる可能性がある」と話している。(12月7日付読売新聞) 最近、再生医療の研究が着実にその成果となって次々に報告されています。 キーワードは「幹細胞」ですね。 昨年8月には、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授らが世界で初めて、マウスの皮膚細胞から万能細胞(誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell=iPS細胞)づくりに成功したことが発表され、大きな話題となりました。さらに今年に入り、先月21日には、ヒトの皮膚からヒトiPS細胞の作成に成功したことを発表しました。 iPS細胞は、高い増殖能と様々な細胞へと分化できる万能性(分化多能性)を持ち、倫理的問題も克服することができるため、脊髄損傷や若年型糖尿病など多くの疾患に対する細胞移植療法につながることが期待されます。また患者自身の体細胞からiPS細胞を誘導することにより、移植後の免疫拒絶反応も克服できると期待されます。 山中教授と同時に成果を公表した米ウィスコンシン大と並び、今月4日、米ハーバード大学のコンラッド・ホッケドリンガー助教授が率いる研究チームもiPS細胞の作成にほぼ成功していること事を打ち明け、山中教授は「知っているだけで既に6研究室がヒトiPS細胞を手にしている」いう(12月8日付読売新聞)。 さらに、科学誌「サイエンス」電子版12月6日付には、米ホワイトヘッド研究所(マサチューセッツ州)のチームが、iPS細胞を使ってマウスの貧血症を治療することに成功したことが発表されています。 日本を筆頭に、世界中の研究者たちでとても激しい研究競争が繰り広げられているようです。 10年後、いや数年後には、今日ではまだ思いもつかぬ再生医療の未来が、さらに開けていることでしょうね。
< 2007/12/08 >

口腔がん・検査翌日から抗がん剤

今年9月に、石川嘉延静岡県知事が初期の歯肉癌であることを公表し、切除手術を受けたことは、静岡県民なら記憶に新しいことでしょう。 歯肉癌は歯茎にできる癌で、口腔癌(口の中の癌)の中では舌癌に次いで多い癌です。3分の2は下顎歯茎に発生し、臼歯部が多いとされています。石川知事も左下奥歯でしたから、典型的な症例といえます。 歯肉癌の予後は病変の進行度によりもちろん異なりますが、病巣が直径3cm以内で転移のない場合では80%以上が治癒しているといわれています。しかし、歯肉癌全体では5年生存率が上顎で約30%、下顎で約25%で、決して良いとはいえません。 歯肉癌や舌癌を含む「口腔がん」は、癌の中ではそれほど頻度の高いものではありませんが、早期に首のリンパ節への転移も生じやすいため、早い病期での発見は勿論のこと、発見したならば早期に治療することがとても大切になってきます。 11月30日の新聞に、口腔がんの疑いで組織の一部を採取する「生検」という検査を受けた患者に、翌日には結果を知らせて、癌であれば抗がん剤治療を始める試みを昭和大学歯学部の新谷悟教授らが進めていることが取り上げられていましたので、紹介します。 舌や歯ぐきなどにできる口腔がんの治療は、一般に\x{fffd}@生検\x{fffd}A摘出した組織を顕微鏡で見る病理診断でがんかどうか判定\x{fffd}B画像診断で部位や転移の有無を検索\x{fffd}C抗がん剤や放射線による治療で病巣を小さくして手術-の順に進む。 ▽転移しやすい 生検から病理診断まで一週間、その後も「画像診断装置や手術室の確保の都合があり、手術まで数週間かかる」(新谷教授)。 口腔がんは首のリンパ節に転移しやすく、新谷教授は無治療期間を短くする方法として、迅速病理診断と早期抗がん剤治療の導入を決めた。 通常の病理診断では、採取した組織をホルマリンに浸したパラフィンで固めて切片を作る。一方、迅速診断では液体窒素で瞬時に凍結させるため、すぐに切片ができ結果が分かる。手術中に、がん細胞の取り残しがないかどうかを調べるのに使われており、新谷教授は「信頼性は高い」という。 患者が希望すれば、生検の翌日に結果を教え、がんなら直ちに飲み薬の抗がん剤治療(2週間服薬し1週間休薬)を開始。がんがある程度進行していれば、放射線を併用するなど、治療を行いながら手術の準備を進める。 この方法を昨年7月以降、19人に実地し、手術までの期間は二十日程度で済んだ。 ▽早期治療を望む声多数 見ただけでがんと分かる症例には、病理診断の結果を待たずに抗がん剤投与を始めてはどうかという意見もあるが、新谷教授は「抗がん剤は副作用も起き得るので、病理は欠かせない」と言う。 こうした方法を患者側が望んでいるのか確かめようと、新谷教授は調査会社に依頼しインターネットで全国の一般の人約1300人にアンケート。生検から2,3日以内に結果を知りたい人は73%、結果判明から1週間以内に治療を始めてほしい人は85%と、迅速な対応を望む意見が多かった。 迅速病理診断は、がんの手術を毎日行っている診療連携拠点病院のような医療機関なら可能で、新谷教授は「飲み薬の抗がん剤を使う胃がんや食道がんなどの治療にも応用できるのではないか」と期待している。(11月30日付 静岡新聞夕刊) 石川知事の場合はハミガキ時の出血で病院を受診され、早期発見早期治療に結びついたようですが、ハミガキ時の出血はとかく軽く見てしまいがちです。 「ちょっと歯周病にでもなったかな?」と、また、初期段階では見た目や症状が口内炎に似ているため放置されてしまい、進行してしまうこともあります。白血病なども歯肉からの出血で発見されることが往々にしてあります。 タバコやアルコールや激辛などの刺激もそうですが、虫歯や歯石・適合の悪い詰め物や被せ物・合ってない入れ歯などで常に歯ぐきや舌を傷つけ続けていることも癌の原因になります。口腔内を不潔にしているとが引き金となります。 定期的に歯科医院でお口の中をチェックしてもらうことは、歯周病や虫歯から「歯を救う」だけでなく、口腔内に潜む癌などの疾患から「命を救う」ことでもあるといえるのです。
< 2007/11/30 >

「カリソルブ」 ~タービンで削らない治療法~

「歯医者さんの何が嫌いか?」と聞けば、「虫歯を削るとき痛いから」とか、「あのキーンという音が怖いから」などという答えが多く返ってきます。確かに、タービンで虫歯(感染象牙質)を削られるのは気持ちいいものではないですよね。 ですから、皆さん一度は「虫歯にちょちょっと塗ったら虫歯が治る薬があればいいのに・・」なんて考えたことがあるのではないでしょうか。 そんな夢のような願望にちょっと近い、新しい虫歯治療液「カリソルブ」がこのほど日本で認可されましたので、ご紹介します。 「カリソルブ」は、スウェーデンの歯科大学、工科大学そして複数の研究機関とメディティーム・デンタル社によって1987年より10年間にわたり研究開発されました。一般臨床には、1998年よりスウェーデンを中心に導入され、現在では世界47ヶ国で臨床導入されています。日本ではこの度やっと認可が下り、正規に臨床に導入することができるようになりました。 カリソルブは、カリソルブ溶液(次亜塩素酸ナトリウムと3種類のアミノ酸の混合溶液)の作用により感染した象牙質のみを選択的に軟化させ、専用のインスツルメント(手用器具)を用いることで、その感染部位のみをかき出して除去することを可能にします。 カリソルブの特長 1.健全歯質の保存 :カリソルブを用いると、感染象牙質と健全象牙質が明確に区分されるため、う蝕組織のみを除去することが可能です。健全象牙質は不必要に除去されることなくしっかり保存することができます。 2.痛みの少ない治療 :カリソルブによる治療の多くはタービン等回転切削器具の使用や局所麻酔の必要性を最小限にとどめることができます。 3.静かで快適な治療 :タービンやエンジンなどの回転切削機器による不快な音や振動が発生しない快適な環境で治療を受けることができます。 4.安全性 :カリソルブは軟組織(歯肉や舌など)やエナメル質には作用せず、歯髄(歯の神経)への影響も報告されていません。 子供さんや高齢者、歯科恐怖症や痛みに敏感な方にはとても朗報だと思います。 ただこの治療法は、神経に達していない虫歯(C2)であることなど適用症が限られています。また今現在保険適用はされていません。 カリソルブに関心のある方やカリソルブ治療をご希望の方は、お気軽にご質問・ご相談ください。
< 2007/11/14 >

人間ドックに行ってきました

昨日(11月8日・いい歯の日)、人間ドックに行ってきました。 毎年秋風が本格化してくる11月に、年一度の人間ドッグを受けるようになってもう8年程になるでしょうか。即日結果のでる項目については今年も何も問題はなく、まだまだいけるととりあえずほっとしております。というのも、胃カメラと婦人科検診については後日結果が郵送されてくるからで、まあ、それまでは毎年ちょっとドキドキではありますが。 さて、私が毎年受ける1日人間ドック(聖隷健康診断センター)では「健康講話」というものが組み込まれています。45分ほどですが、より健康になるためのアドバイスや日常生活に取り入れるヒントを毎回やさしくお話してくださいます。 今回は「口は健康の入り口」というテーマでのお話がありました。とてもいいお話でしたので、この内容を踏まえて私なりにまとめて書いてみることにします。 最近では国民のほとんどが知っている「メタボリックシンドローム」という言葉ですが、正しく理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。メタボと聞いて皆さんがまず連想するのは「おなかまわり(腹囲)」のことだと思います。 1)男性で85センチ以上 女性は90センチ以上 というのがメタボの基準になっています。これは、内臓脂肪を推し量る目安となる数値です。したがって皮下脂肪を貯めやすい女性は、男性より5センチ猶予があるのですが、この数値は最近多少見直しが必要なのではという議論もあります。いずれにしても手軽にメジャーで測ることができますから、わかりやすいですね。ただ「おなかまわり」とは、臍周囲(おへそ周り)のことですから、気をつけてください。 さて、メタボと診断されるのはこの腹囲の基準に該当し、さらにこれに加えて 2)血圧:最高血圧130mmHg以上または最低血圧85mmHg以上 3)空腹時血糖:110mg/dl以上 4)中性脂肪:150mg/dl以上 または HDLコレステロール(善玉コレステロール)39mg/dl以下 この2)~4)のうち、2つにも該当する方です。 不健康な生活習慣により内臓脂肪が貯まると、内臓脂肪から悪いホルモンが分泌され「高血圧・高血糖・高脂血症」になります。これにより「動脈硬化」が進み、死に直結する「心筋梗塞・狭心症・脳梗塞」をおこしてしまうというわけです。 上に記した1)~4)の危険因子をひとつも持たない健康な人と比べて、1つ該当すると約5倍、2つでは10倍近く心筋梗塞の危険度が上がるといわれています。では、3~4つ当てはまるメタボリックシンドロームの人ではどのくらい危険度が増すと思いますか? なんと30倍以上です。恐いですね。 ですから、この病気の連鎖を食い止めるために、不健康な生活習慣を改善し内臓脂肪を減らすことはとても大切なことなのです。 では、お口とメタボリックシンドロームとはどんな関係があるのでしょうか。 歯周病が全身に与える影響に、糖尿病や動脈硬化があります。歯周病を治療したら糖尿病が改善したという報告がありますし、動脈硬化の血管内から歯周病菌が認められたという報告もあるようです。 歯周病とメタボリックシンドロームは本当にとても深い関係があるのです。 歯周病はほかにも、肺炎、感染性心内膜炎や心筋炎、胃腸障害、神経痛やリウマチ、手の痺れや関節痛、副鼻腔炎(蓄膿症)、低出生体重児や早産にも影響を及ぼし、認知症の誘因になるともいわれています。 このように歯周病は全身に多種多様な疾患や不具合を生じさせる感染性疾患です。さらに、40歳以上の人の80%以上が罹っているといわれ、初期~中期にかけてほとんど自覚症状の無いまま進行することが多いのが特徴です。 どんな病気でも早期発見・早期治療ならそれだけ予後は良好です。ですから、お口の中も定期的にチェックすることは全身の健康のためにもとても大切だということが、わかっていただけると思います。 まさに「お口は健康の入り口」なのです。
< 2007/11/09 >